先日、ある方の借りていた賃貸物件を解約し、その敷金が戻ってくるというので受取りに代理で行くことになりました。貸主のオフィスで受け取ったのは小切手。
最近はオンラインでの送金がかなり普及してきたので使用される頻度は下がっているでしょうが、それでもタイでの商取引や決済で小切手は依然として重要な役割を果たしています。この小切手、ふと見ると受取人名義に「เงินสด(現金)」と書かれていて、しかも線引きされていませんでした。
この小切手を見て、筆者には10年以上も前に会社勤めしていた時の苦い記憶が蘇って来ました。当時、私はバンコクにある小さな貿易会社でマネージャーをしていて、経営全般を見ていました。当然財務管理や支払の管理もしていましたので小切手のサインも私自身がしていました。
経理をしていたタイ人の女性は私の妻の友人で信頼していたため、彼女が用意した小切手に、私はただサインするだけだったんです。もちろん誰に支払うものなのか、金額はいくらか、など確認はしていたつもりですが、大変なことを見落としていて痛い目に遭いました。
ある日彼女が持ってきた小切手にいつも通りサインをして返し、それから数日後に・・・
取引先から「入金がない」とクレームが来たんです。
経理の彼女に確かめましたが、「支払担当者に手渡した」と言うので
その人間に聞くと
「いや、受け取っていない」という。
ラチが明かないので銀行に確かめると、この小切手の支払先は取引先ではなく、経理の女性の弟名義になっていました。
私が見落としていたのは名義人欄です。
そこが空白だったことに気付いていたかどうか、今では覚えていませんが、彼女を信頼する余りほとんど考えずにサインしてしまっていたのでした。名義人に弟の名前を入れた筆跡は明らかに彼女のもので、問い質すとやったことを認めました。
本来ならば、警察沙汰にすべきことでしたが警察沙汰にはせず、即時、懲戒解雇としました。
妻の友人、ということに温情が働いたのです。辞める時、彼女は「絶対に返すから」と言って出て行きましたが、それ以来 、1バーツすらも返して貰っていません。
日本人男性 Mさんの事例
【タイで小切手の取り扱い時の原則】
小切手は現金を持ち歩くリスクをなくしてくれる便利なものですが、取り扱いには注意が必要です。冒頭で紹介した敷金を払い戻した小切手は、ほとんど現金を手渡すのと同じで、小切手の役割を果たしていないと言えます。
≪原則として①名義人欄には必ず支払先の名前を明記すること、そして②必ず線引きすることです。≫
「線引き」とは、
小切手に2本の平行線を引くことで、これにより銀行口座への入金しかできなくなります。文具屋では「Account Payee Only」というスタンプが売っているので、それで小切手にスタンプしても構いません。
受取人の「名義人欄」明記と「線引き」で小切手のお金は間違いなく受取人の銀行口座に入るしか使い道がなくなります。
場合によっては、先方が発行した小切手を受け取る場合もあるでしょう。その時にはこうした点をしっかり確認し、線引きされていなかったり、受取人が記載されていなかったら、急いで銀行に行って口座に入金することです。こうした小切手は現金を持ち歩くのとほとんど変わりません。
オンラインでの決済が台頭して小切手は近い将来姿を消すかもしれません。もう「小切手って何?」とその存在すら知らない世代がいるかもしれないですね。
ただ、オンライン決済のリスクは自分でコントロールできない所で発生する可能性が高いのに対し、小切手決済のリスクは自分でほぼ完全に予防できるというメリットがあります。
原始的かもしれませんが、意外と使い勝手が良い支払い方法として選択肢の中の1つに留めておいてもいいかもしれません。