タイでも日本人の「カスハラ」が深刻

 

今回、2024年「新語・流行語大賞」でもノミネートされたほど「カスハラ(カスタマーハラスメント)」は、日本では取り沙汰されている大きな問題でもあり、カスハラ防止のための各都道府県も条例制定を行っており、企業や団体もその対策に動いています。そして、その「カスハラ」はタイにおいても深刻であり、多くの日系企業や店舗より、日本人の様々な悪質な内容についてご報告を受けています。今回は、カスハラについて基本的な説明に合わせ、カスハラ行為者に対するタイの法令と刑事上の責任などについて解説します。

  

 

◆カスハラ(カスタマーハラスメント)」とは


「カスハラ(カスタマーハラスメント)」とは、正当なクレームと違い、その内容は多様であるものの、顧客が企業に対して不理屈で悪質な言動(事実無根の要求や法的な根拠のない要求を暴力的、侮辱的な方法を使う)をすることをいい、それによって、職場環境や対応した従業員のメンタルが害されたり、効率性の低下や基本業務の時間が奪われるほどの行為を指します。ここでの顧客の定義は、今後商品やサービスを提供する可能性がある潜在的な顧客も含まれます。

 

そして、これだけ日本人のカスハラ問題が広がりを見せている理由には、どうやら日本に根付いている「おもてなし」や「お客様は神様」という顧客サービスに対する概念が影響しているようです。確かにその概念が、海外の国々の「顧客サービス」に対する概念と日本の発想が180度異なることもあるため、「もう、その概念自体が時代遅れで、とても古い概念」と言えます。

 

 

 

◆カスハラ行為者に対する タイの法令と刑事上の責任


 

カスハラ行為に及んだ場合、行為の内容によっては、それがタイの民商法における不法行為に該当する場合には、その加害者は、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。その内容としては、そのカスハラ被害によって精神的ダメージを受けた従業員個人に対する慰謝料といった賠償責任だけでなく、カスハラ行為によって企業の権利・ 法律上保護される利益を侵害されたことにより損害が生じた場合には、企業に対して賠償責任を負う可能性もあるでしょう。また、民事上の損害賠償責任だけでなく、刑事上の責任を負うことも考えられ、以下の犯罪が成立する可能性があります。

 

 

民事上の責任(損害賠償責任) 

 

カスハラ行為に及んだ場合、それがタイの民商法における不法行為に該当する場合には、その加害者は、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。その内容としては、そのカスハラ被害によって精神的ダメージを受けた従業員個人に対する慰謝料といった賠償責任だけでなく、カスハラ行為によって企業の権利・ 法律上保護される利益を侵害されたことにより損害が生じた場合には、企業に対して賠償責任を負う可能性もあるでしょう。

 

 

【暴行罪・傷害罪】対応した従業員などに暴力を振るった場合

 

タイ刑法391条 他人に暴行を加え、その結果として身体または精神に危害を及ぼさない者は、1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

タイ刑法295条 他人に暴行を加え、その結果として他人の身体または精神に危害を及ぼした者は、暴行罪を犯したものとされ、2年以下の禁錮または4万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

タイ刑法297条 暴行罪を犯し、その結果として被害者に重傷を負わせた者は、6か月以上10年以下の禁錮および1万バーツ以上20万バーツ以下の罰金に処される。

 

 

【名誉毀損罪・侮辱罪】対応した従業員や会社の名誉を傷つける発言をする

 

タイ刑法326条 第三者に対して他人を中傷し、その結果として他人の名誉を傷つけ、侮辱され、または憎悪される可能性がある場合、その者は名誉毀損罪を犯したものとされる。1年以下の禁錮または2万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

タイ刑法393条 他人を面前で、または広告を通じて侮辱した者は、1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

タイ刑法397条 個人に対していじめ、威圧、嫌がらせ、または迷惑行為を行った者は、5,000バーツ以下の罰金に処される。公共の場または多くの人の前で行われた場合、または性的嫌がらせを含む場合、1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。さらに、上記の行為が指導者、雇用者、またはその他の支配権を持つ者の立場を利用して行われた場合、1か月以下の禁錮および1万バーツ以下の罰金に処される。

 

 

【脅迫罪・強要罪】対応した従業員や会社に対して脅迫を行った場合

 

タイ刑法392条 他人に対して脅迫することで恐怖または驚愕を引き起こした者は、1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

 

【恐喝罪】人を恐喝して財物を交付させた者

 

タイ刑法337条 暴力または生命、身体、自由、名誉、財産に対する危害を加える旨を告知する脅迫によって他人を強制し、その財産的利益を提供させた者は、恐喝罪を犯したものとされ、5年以下の禁錮または10万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。以下の場合には、6か月以上7年以下の禁錮および1万バーツ以上14万バーツ以下の罰金に処される。

 

 

【強要罪】生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した者

 

タイ刑法309条 他人に対して生命、身体、自由、名誉または財産に害を及ぼす旨を告知して恐怖させ、義務のない行為をさせたり権利行使を妨害した者は、3年以下の禁錮または6万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

タイ刑法310条  他人を拘束または監禁し、または身体の自由を奪う行為を行った者は、3年以下の禁錮または6万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。拘束または監禁によって重大な結果を招いた場合には、第290条、第297条、第298条に従って処罰される。

 

タイ刑法310条の2 他人を拘束または監禁し、その者に特定の行為を行わせた者は、5年以下の禁錮または10万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

 

【軽犯罪法違反】著しく粗野または乱暴な言動で他の客に迷惑をかけた場合

 

タイ刑法397条 他人に対していじめ、威圧、嫌がらせ、または迷惑行為を行った者は、5,000バーツ以下の罰金に処される。公共の場または多くの人の前で行われた場合、または性的嫌がらせを含む場合、1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。さらに、上記の行為が指導者、雇用者、またはその他の支配権を持つ者の立場を利用して行われた場合、1か月以下の禁錮および1万バーツ以下の罰金に処される。

 

 

【侮辱罪】事実を摘示しなくも、公然と人を侮辱した者

 

タイ刑法393条 他人を公然で、または広告を通じて侮辱した者は、1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

 

【信用毀損及び業務妨害罪】虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者

 

タイ刑法326条 第三者に対して他人を中傷し、その結果として他人の名誉を傷つけ、侮辱され、または憎悪の対象とされる可能性がある場合、その者は名誉毀損罪を犯したものとされる。1年以下の禁錮または2万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

 

【従業侵入等】正当な理由がないのに、人の住居・邸宅、企業の建造物に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者

 

タイ刑法362条 他人の不動産に不法侵入し、所有を妨害または通常の使用を妨げる行為を行った者は、1年以下の禁錮または2万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

タイ刑法364条 正当な理由なく他人の住居、建物、または事務所に侵入し、退去命令を無視した場合、1年以下の禁錮または2万バーツ以下の罰金、またはその両方の刑に処される。

 

 

◆企業の安全配慮義務とカスハラ対策


従業員が安全に就業できるように「カスハラ防止対策」を講じることは、従業員との労働契約に付随する企業や団体の安全配慮義務義務となります。企業は、会社の資産ともいえる従業員をカスハラから守る責任がありますので、顧客や取引先など社外の人物から受けるカスハラに対して対策を講じる必要があります。

 

また、企業のリスクとしては、従業員のモチベーションが低下することで、企業としての生産性が低下したり、カスハラ被害に遭った従業員が精神的ダメージを負うことで、休職やカスハラを拒絶できない弱腰な企業に嫌気がさし離職が増加します。評判が定着してしまうと社会的な世評や会社全体の信用を悪化させることにも繋がります。この様な不利益を企業が負わないためにも、企業や団体は、カスハラを許してはいけません。

 

顧客の主張が言いがかりに過ぎず、会社側に何ら過失がない場合は、カスハラと捉えて毅然とした対応をとりましょう。カスハラ加害者は、自分に都合の良い身勝手な主張や要求をする傾向にあるため、こちら側の言ったことに対して上げ足をとってきたり、一貫性がなく矛盾した言動をすることも多いです。カスハラ加害者の言動に振り回されないように、聴き取った内容の記録や、出来る限りメールなどの記録が残る手段で対応しましょう。また、カスハラ行為が犯罪に当たり得る場合、社内の防犯カメラの映像や録音をしておけば、警察に証拠として提出できることもできます。

 

正当なクレームとカスハラの見極めが困難なケースなどについても、どのように判断するのか判断基準などを明確に策定し、実際にカスハラが起きた際には、そのカスハラ対策マニュアルの対応方法に従いましょう。常に、従業員などへは「カスハラ対策」に関する教育・研修の機会を設けるなどして社内で情報共有をすることや責任者への引継ぎを行い、企業全体で一貫性のある取り組みをする必要があります。

 

そして、カスハラはいつ起こるか分かりませんので、カスハラに適切に対応するためには、これまでのカスハラの事例を収集したうえでカスハラの基準を決定することです。あらかじめ「カスハラ対応マニュアル」の策定などを行い、そこには、対応方法や手順、対応に当たってのルールなどを策定して対策を整えておきましょう。また、カスハラ被害を受けた従業員の心のケアだけでなく、それまで受けたカスハラ事例を纏めたうえで、再発防止のため定期的にマニュアルの改正を行うことも重要となります。

 

 

従業員が個人で問題を抱え込むことがないように、相談体制の整備を整え、企業がカスハラへの対応を外部の専門家に委託するなどの方法も有効です。カスハラの傾向は、各業種の特性や提供している商品やサービス内容によって異なってきます。対応方法や対応手順をよく検討し、その企業に合った対応策を検討してマニュアルを策定しなければ、実効性が伴わないものになってしまい意味をなさなくなってしまいます。

 

 

 

◆カスハラに備えて当事務所ができること


対面でのカスハラ被害だけでなく、相手の顔が見えないため攻撃的になる人も多いため、社内で電話やメールおいてカスハラ対応をする場合、対応者の業務負担は非常に重くなます。

 

社内での対応が難しい場合や精神的な負担や社内でのカスハラ対応者への研修や育成をする手間やコストを軽減するため、弁護士へ委任することも可能です。私たちは、カスハラに対しての専門的な知識やスキルを備えており、迅速にできます。

 

カスハラをする顧客が現れた場合に備えて、あらかじめ以下の対策やカスハラ被害が起きた際に、下記のご依頼への対応が可能です。

  1. カスハラ対応マニュアルの策定
  2. カスハラ対応の研修資料作成
  3. カスハラに関する相談窓口(顧問契約)
  4. カスハラが起こった時の対応や措置

 

また、前述したように、カスハラは脅迫や強要などの犯罪としてタイの刑法に該当する可能性も十分にあり得る行為ですので、弁護士へ民事上の損害賠償請求や刑事告訴の代理人を依頼することができます。悪質なカスハラでお困りの場合や加害者に対する損害賠償請求を検討している場合には、弁護士を介入して法的に解決することをお薦めします。

 

 

まずは、お気軽にご相談ください。