慣れないタイでの生活環境や変化によるストレス等から、配偶者やパートナーからのDV(ドメスティックバイオレンス)やモラハラ(モラルハラスメント)被害の相談が増えています。また、配偶者からの暴力は、これまで女性に起こる問題と考えられてきましたが、男性が被害者となり得るケースも年々増加傾向にあります。
DVやモラハラの特徴としては、家庭内で行われているので外からはなかなか見えずらいだけでなく、タイという異国の地で、信頼を置ける友人や親類が近くにいらっしゃらないこともあり、被害者の方が声を上げにくいという性質があります。
また、身体的暴力を受けている被害者のケースでは、「誰かに話せば殺されるのではないか」と思ってしまっていたり、罵倒され続けていたりしているため、相談する気力自体を失ってしまうことも要因とされています。あるいは、経済的暴力などでは、そもそもご自身が被害を受けていることに気づいていない方もいらっしゃいます。このようなタイでのDV・モラハラ被害に対して、当事務所がどのようなサポートを提供しているか等をご説明させていただきたいと思います。
~目次(表示)~
◆DV・モラハラ(モラルハラスメント)とはなにか
◆DV・モラルハラスメントを理由に離婚するためのポイント
◆DV・モラハラに関する(タイの)法令について
◆離婚手続きの流れ
◆DV・モラハラ被害で弁護士ができること
◆まとめ
DV(ドメスティック・バイオレンス)という用語については、明確な定義はありませんが、日本では、「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いです。なお、日本では2004年の「児童虐待の防止等に関する法律」の改正により、子どもの目前でのDVも児童虐待(心理的虐待)に当たることが明確化されています。
DVでいう「暴力」は、身体的暴力、性的暴力、精神的暴力、経済的暴力といった様々な態様の暴力をいいます。身体的暴力の例としては、殴る蹴る、突き飛ばす、髪を掴んで引っ張る、首を絞める、熱湯をかける等といった身体を直接に侵襲するものから、物を投げつける、刃物で脅すといった身体に直接触れないものまであります。
性的暴力の例としては、避妊に協力しない、中絶の強要、暴力亭な性行為を強要される等があります。
精神的暴力の例としては、怒鳴る、罵る、人前で侮辱する、人格を否定するような暴言を吐く、子供や親戚に危害を加える等と脅す、行動内容や交友関係、メール等を細かく監視し制限する、私物を勝手に捨てる、あるいは何を言われても無視するといったものから、殴るふり、蹴るふりなどといった事例があります。
経済的暴力の例としては、生活費を渡さない、貯金を無断で浪費するといったことから、仕事をやめることを強要される、仕事をすることを禁止する等の事例が挙げられます。
モラルハラスメントとは上記の中の「精神的暴力・経済的暴力」を指しているとされ、身体的、性的な暴力とは異なり、言葉や態度によって行われるモラルハラスメントは、周囲の人になかなか理解してもらえず、自分が悪いのだと我慢して、そもそもご自身で被害を受けていることに気づいていない方もいらっしゃいます。
加害者にとっては普通や常識のことだろうと思われても、被害者にとって尊厳を傷つけられ、脅威を感じているのであれば、それはDV・モラルハラスメントになり得ます。加害者となる条件に性別は一切関係ありません。
傷害罪だけではなく、家庭内であろうと、夫婦間であろうと、侮辱罪(タイ刑法 第393条)や名誉毀損罪(タイ刑法 第326-333条)のような刑法犯罪は十分に成立します。名誉毀損は、事実の摘示によって公然と社会的評価を低下させることを不特定多数に言いふらした時に成立します。
公然とは,不特定又は多数人が知り得る状態です。たとえば、妻が夫の勤務先に「うちの主人は、嘘ばかりで、とてもいい加減な人間なんです」と電話すれば、名誉毀損になる可能性もあります。また、「事実の摘示(てきじ)」とは示すことです。摘示したかどうかによって名誉毀損罪か侮辱罪かが区別されます。
ですので、侮辱罪は、事実を摘示しないで公然と人を侮辱した場合となり、罰則は、名誉毀損罪で
「3年以下の懲役もしくは禁錮または20万バーツ以下の罰金」、侮辱罪では、「1か月以下の禁錮または1万バーツ以下の罰金」が用意されています。
また、モラハラ行為が民法の不法行為を形成すれば民事責任も問われます。また、被害者は、加害者に対して、暴力に対する傷害罪の訴えによって刑事責任や罰を求めたり、精神的苦痛などに対する慰謝料(損害賠償請求)や傷害や精神疾患を患った場合の治療費などを請求できます。
タイでは、2007年11月に、ドメスティック・バイオレンス被害者保護法が施行されています。保護法での刑罰は、最長6か月の禁固とされていますが、同様の違反として、「暴行罪」は、最長2年の禁固とされています。
ドメスティック・バイオレンス被害者保護法については、内閣府 男女共同参画局の調査研究報告書(PDF) より詳細確認ができます。
暴行罪などと聞くと、「相手に暴力を振るってケガをさせたら」というイメージが一般的かもしれませんが、精神的苦痛を与え続けて相手がうつ病などの精神疾患になっても暴行罪になります。
タイの刑法典において、「暴行罪」とは、人の心身を害する傷害行為を内容とする犯罪であり、他人に対して故意に暴力を振るった結果、相手の身心に危害を与えること言います。犯罪行為の要素としては、下記の通りに示されます。
【外的要素】
① 暴力とは、他人の心身に障害を与える行為の事である。
② 加害者は、自分自身を負傷させていない状態で、被害者は、暴力を振るわれた後、生存している状態であること。
③ 他人の心身に傷害を与えるとは、暴力を振ったことにより他人の心身に直接危険な影響を与えることをいう。また、心理的に傷害を与えることとは、暴力の結果、被害者の精神状態が、怯えていたりの異常を来した状態、精神疾患を患っている状態、更に、命はあるものの意識がない状態などをいう。
【内的要素】
加害者が、故意的 (行動抑制能力: 自身の行動を律することができる能力がある) に犯罪を実行していること。または、自分の行為の結果が、他人の心身に危害を与えると予見 (物事の善し悪しが判断できる能力) 出来ていたこと。とされている。
【暴行罪 処罰に関するタイの法律】
他人への心身へ及ぼす傷害や暴行に該当する違法な犯罪行為には、タイ刑法の規定があり、例えば、他人に対して「殴る」「たたく」などの暴力で、治療期間も短く、数日で回復するようなケガの状態や心理的な影響がない場合、タイの刑法:マーター第391条 において、1か月以下の懲役、10,000バーツ以下の罰金、または、罰金と懲役の両方を科す。と規定されています。
また、タイの刑法:マーター第295条 においては、心身に重大な危害・暴行を加えた場合、2年以下の懲役、40,000バーツ以下の罰金、または、罰金と懲役の両方を科す。と制定されています。しかし、出血多量などの重傷を負うほどの暴行があった場合には、10年以下の懲役刑となります。
タイ刑法:マーター第296条 では、他人への身体的危害を加え、更に、マーター第289条に制定されている行為に該当する場合は、3年以下の懲役、60,000バーツ以下の罰金、または、罰金と懲役の両方を科す。
しかし、タイ刑法:マーター第297条 においては、重症度や被害者の命に危険性な状態の場合、懲役15年以下とされており、6か月から10年の懲役、10,000バーツから200,000バーツの罰金が科す。と制定されています。
懲役15年以下に該当す重傷度とは、「失明、聴覚を失う、舌失う、嗅覚を失う」などの五感を失う状態、「生殖器・腕・足・手・足・指」などの身体部位の切断。例えば、硫酸や塩酸をかけるなどの「アシッド・アタック(酸攻撃)」により、元々の容姿を栄久に失うことや、流産させる目的で妊婦に暴行を加え、その結果、「流産させた場合」も該当します。
また、20日以上に上って日常生活がおくれない状態や、「永久的に精神病を患う状態や身体障害」など、慢性的で生涯に渡り永久に治らないと思われる病状や昏睡状態で目を覚まさない状態も含みます。
また、タイ刑法:マーター第298条では、マーター第297条に基づいた違法行為に加え、その行為が、第298条に制定されている暴行行為の性質に該当する場合は、2年から10年の懲役、40,000バーツから200,000バーツの罰金を科す。と制定されています。マーター第298条で制定されている、その性質とは、加害者の両親や公務員への暴行(公務執行妨害)、計画的で残忍な暴行を行うこと、また、別の違法行為を隠す目的や処罰を逃れる目的により他人に危害・暴行を加える行為とされています。
・迅速かつ適切な保護命令の獲得
DV被害の中には生命・身体の安全確保のために、一刻を争う場合もあります。そのような場合には、早急に必要書類を収集・作成し、迅速に保護命令を申し立て、接近禁止命令等を求めていきます。
・タイ警察への被害届提出、刑事告訴等を支援
管轄刑事裁判所に訴状を提出して、刑事裁判で被害者の弁護を行います。また、タイ警察捜査機関に対する被害相談・被害届の提出・刑事告訴等を支援いたします。捜査機関に対し、被害内容をどう伝えていいのかわからないような場合でも、弁護士があなたのお話をお伺いし、被害内容やご心情を弁護士が代わりに陳述書にまとめたり、捜査機関に申告したりするなど刑事手続においても尽力いたします。
タイの刑事訴訟法の第30条に従い、検事が原告として犯罪者(加害者)を訴えた場合には、弁護士は申請書を提示したうえで、依頼人の権利を守るために共同原告として裁判に出廷することなどがあげられます。
・民事の損害賠償請求
民事裁判を提起することにより、DV・モラルハラスメントにより生じた様々な損害を、相手方に対して賠償するよう求めることができます。検事訴訟法の第43条、第44/1条に基づき、 刑事事件が、民事事件と並行する場合は、犯罪に対する依頼人のための賠償金請求について、検事に損害賠償請求について申請してもらうこと、または、依頼人の資産に損害がある場合、その補償額を計算して請求すること。
DVを受けていることを訴える場合、診断書等の客観証拠が重要となります。そこで、パートナーからの暴力行為を受けて負傷したときは迷わず受診するようにしましょう。また、診断書等の医療記録は、パートナーに対して慰謝料を請求するときの証拠となるだけではありません。
保護命令を申し立てるときにも重要な証拠資料となります。保護命令というのは、DVを行うパートナーに対して、裁判所を通じて接近禁止命令等を出してもらう手続です。したがって、負傷したら、出来るだけ早い時期に受診しましょう。そして、受診に際しては、医師にはパートナーから暴力を受けたということをきちんと伝えるようにしてください。カルテや診断書にそのことが記載されれば、裁判等で証拠として提出できるからです。
モラルハラスメントの場合、その裏付け資料の準備がDV以上に難航します。したがって、相手の言動が第三者から見ても耐えがたいものと言えなければなりません。訴訟離婚の場合、第三者である裁判官に理解してもらうために、配偶者・恋人のモラルハラスメントを構成する行為の証拠を集める必要があります。
上記通り、第三者に加害者の言動が、いかに耐えがたいものなのか理解してもらうために明らかな証拠が必要になります。
DV・モラルハラスメントの被害者は、「自分が悪いから、自分さえ我慢すれば円満にいく」と考えてしまう我慢強い性格の人が多く、心の中で「離婚をしたい」と思っていても、我慢している人も多いです。罪悪感を持ち、我慢を重ねた結果、ストレスによる病気の併発も珍しくありません。
そのため、加害者の言葉に惑わされることなく、正当な権利を主張する為には、専門的な法律知識を持った、冷静な第三者の手助けが必要になります。まず、被害者が、自分は被害者だということに気付くことが大事です。また、将来的に様々な悪影響を被害者の方や子どもに及ぼしかねません。
一人で悩まずにまずは専門家である弁護士にご相談ください。
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